前回までのあらすじ
「瑞々しい文体」とは何か
ググりつづける一行に「BKN(文体とか気のせいで内容じゃね?)」という謎の組織的雰囲気がのしかかる
雰囲気に負けるな! 果たして「瑞々しい文体」はあるのか!
詳しくは「瑞々しい文体を集めたい 前編」をお読みください
これが瑞々しい文体たちだ!
ひとまずネットで瑞々しいと言われていた文体を2つ見つけました
ちょっと読んでみてください
思いをめぐらすと、まるで夜明けにイワツバメが鐘楼のまわりを飛びまわるように、いつも同じイメージのまわりを空想がぐるぐる勢いよく駆けめぐりました。
イワン・ツルゲーネフ 「初恋」
雨は去った。草原は新鮮になった。赤ん坊の肌のようにみずみずしい草になった。水で清められた葉身はかぐわしかった。ぼくらは午後、自動銃を使って地物を利用した射撃の要領を学んでいた。
野呂邦暢「草のつるぎ」
言っちゃってる!
2つめは文章内で「みずみずしい」って言っちゃってるぞオイ!
ちなみにこの文体を瑞々しいと言ったひとは根拠らしいことを書いていて
虚飾のない、シンプルな文章で描く、硬質な抒情を得意とした。
少し驚くくらい短い文章を畳み掛けている。
だそうだ
もうひとつ なぜ瑞々しいか書いている文章を
私が感心したのは、文体である。「瑞々しい文体」とはこういうものだと思う。
読みやすいのは当然のこととして、文章としての、躍動感というか跳躍感というか、そういうものを読んでいる間中ずっと噛みしめられる。 単純に読んでいて楽しい文章である。
読書日記 川上未映子『きみは赤ちゃん』|tomoe
瑞々しい文体メソッド
- 飾りの少ない短文を重ねる
- 軽やかな動きを強調する
サンプルが少なく説得力がないが 結論を無理矢理ひりだすならばこれだとおもう
上記で挙げたどの文章もまず題材が若々しい/新鮮であることは間違いがない
結局瑞々しい文体と言われるには題材のチョイスが重要ということになる
すっごく不満だけども
(だって文体じゃないから)
使ってみよう
不安が残りますが上記の瑞々しい文体メソッドを使えばどんな文章も瑞々しくすることが可能なはずです(大きくでた)
早速やってみます
題材は火野葦平の「人魚」
ちょうど 今月 青空文庫に追加されたんです
まずは原文
一週間ほど前のことでした。 夕ぐれどきになって、わたしは棲んでいる山の池を出て、ぶらりと海岸の方へ行きました。 わたしはぶしょう者で、めったに外出をしたことはなかったのですが、その日はなぜともなくふと久しぶりに波の音がききたくなって、海の方へ出かけたのです。 もう秋のちかいころですから、たそがれどきになると、ひやりとした風が吹くようになっていて、わたしの棲んでいる池のおもてに散る木の葉のいろも、季節のうつりかわりをあらわしていました。 わたしが波の音をききたくなったというのも、単調な池の底にあって、やはり海にひろびろとした秋の気配をさぐりたくなったのかも知れません。 そんな飄然とした思いが、わざわいとなって、現在こんな苦痛をなめなくてはならなくなるということが、そのときにどうしてわかりましょう。
これ 主人公が河童なんです
瑞々しい文体メソッドいってみます
一週間ほど前のことでした。
夕暮れどきにわたしは棲んでいる山の池を出ました。ぶらりと海岸の方へ行きました。 わたしはめったに外出しませんでしたが、その日はなぜともなくふと波の音がききたくなって、海の方へ出かけたのです。
もう秋のちかい頃でした。黄昏時はひやりとした風が吹いて、はらはらと散る木の葉の色も、季節のうつりかわりをあらわしていました。 わたしが波の音をききたくなったのも、単調な池の底にあって、海にひろびろとした秋の気配をさぐりたくなったのかも知れません。
そんな飄然とした思いが、わざわいとなって、こんな苦痛をなめなくてはならなくなるということが、そのときにどうしてわかりましょう。
つらい
もとの河童の口調が嫌いじゃなかったのでいじればいじるほどダメになっていくのがつらい
短文にしたらいいっていったの誰!
片言っぽくなっちゃってるんですけど!
「人魚」の妖艶さは瑞々しい感覚と親和性があるとおもったのだけど…
ちょっとうまくいったとは言えませんね…
リライトってむちゃくちゃ難しいんですね…
ちなみに…honobyでヒットしたもの
本の帯アーカイブプロジェクトのhonoby(ホノビー)で検索してみました
「生命の瑞々しさに溢れた育児小説」
堀江敏幸 「なずな」
「3人の男女が織りなす温かでちょっと不思議な三角関係を瑞々しい筆致で描く」
小竹正人 「三角のオーロラ」
「時にみずみずしく、時に生々しい恋愛小説集」
歌野晶午 「ずっとあなたが好きでした」
「瑞々しい一文一文が胸に沁み、自分の心まで瑞々しくなってくる。」
宮下奈都 「誰かが足りない」
ちょ 一文で2回瑞々しいゆうてはられますけどもー!
なんか本の中身も推して知れですね
またじぶんでも「瑞々しい~」とおもった文章は集めておいて「瑞々しい文体」があるのかどうか考えたいとおもう