どうも、rintaroです。
2015年読んだ本まとめ、下半期です。
上半期はすでに公開しているので良かったら読んでね。
【2015年】今年読んだ本ラウンダップ【上半期】|へもか
画像付で紹介しているのがその月のイチオシです!
7月
文学部唯野教授 | 筒井康隆 |
裏山の奇人 野にたゆたう博物学 | 小松貴 |
市めくり | タイムマシンラボ |
食の終焉 | ポール・ロバーツ |
(マンガ)聲の形 1,2,3,4 | 大今良時 |
(マンガ)宝石の国 1,2,3,4 | 市川春子 |
(マンガ)デッドデッドデーモンズデデデデストラクション 1,2 | 浅野いにお |
「文学部唯野教授」は、ドタバタ劇としても哲学文学を概括するガイドとしても読める極上の一冊。
やっぱすごい、筒井康隆。
好蟻性生物の研究をしている小松貴による「裏山の奇人」。
奇人の名にふさわしい著者の衝動に真っ直ぐすぎる行動と、読むまで想像できないほど独自性のある昆虫の進化や生存のドラマ。
動物番組は"母子の愛"とか"種をこえた友情"とか幼稚なストーリーを語るより、こういうドラマを伝えられるよう努力していただきたい。
ちなみにこのあと小松貴の本を何冊か読んだけど、本書がいちばんおもしろかった。
「市めくり」で知った市を、旅行のテーマにしたらたのしそうと思って読んだ。
世間の市は土日祝日開催が多くあまり縁がなかったけど、網羅されていて便利。
旅行すきの人に贈ってもいいかもしれない。
食の終焉
「食の終焉」は7月31日から断続的に借りて9月14日までかかった。
読むのも大変だったけど書くほうはもっと大変だったろうな、と思う554ページ。
この厚みのステーキ食べたい。
著者は「石油の終焉」という著作もあり終焉好きっぽいのは確かだけど、取材や調査の量が尋常じゃない。
ここまでデータやインタビューを揃えられるとただの終焉好きと鼻で笑えない。
「人類の食肉の歴史を探る」といってわざわざ一万年と二千年前まで遡るんですよ。
八千年過ぎた頃からもっと恋しくなるとこだった。
食のシステムは身近なものだけど、身近だけで成り立っていることではない。
すべての問題は根深いし絡みあっている。
これで一発即解決みたいな手法は存在しないんだなということだけは分かった。
「デッドデッドデーモンズデデデデストラクション」。
何がしたいのかまだ分からないけどキャラがかわいい。
宝石の国(1) (アフタヌーンKC)
市川春子の「宝石の国」。
星野源の「桜の森」ジャケットを描きおろしている。
線やセリフやシーンの省略が独特で(それが綺麗なんだけど)、読めるようになるのに時間がかかった。
そのぶん愛着を感じるので、つづきがたのしみ。
8月
原っぱと遊園地 建築にとってその場の質とは何か | 青木淳 |
インザ・ミソスープ | 村上龍 |
テクストの快楽 | ロラン・バルト |
植物の描き方: 自然観察の技法III | 盛口満 |
リカーシブル | 米澤穂信 |
グラン・ヴァカンス | 飛浩隆 |
心狸学・社怪学 | 筒井康隆 |
悟浄出立 | 万城目学 |
イベリコ豚を買いに | 野地秩嘉 |
グラン・ヴァカンス 廃園の天使Ⅰ
インターネットの友人におすすめしてもらった「グラン・ヴァカンス」。
AIたちが主人公のファンタジー、その不思議な仮想世界をリアルに描写する文章が美しい。
読むほど残酷なシーンが続いてAIたちが消えていくのは悲しかったが、先を読みたくてたまらない自分もいた。
そういう嗜虐的な部分を暴かれたようでゾクゾクする作品でもあった。
演算すらされていない架空のエピソードだと理解しながら自己の礎としているAIと、自分の過去が自身のアイデンティティを形作っていると記憶を盲信している人間のどちらが滑稽だろう。
「心狸学・社怪学」は、父に借りた本。
父は筒井康隆の(しかもスラップスティックな)著書をやたら所有している。
「悟浄出立」、元になったストーリーを知らない作品が多く十分に楽しめなかったと思う。
読まねば。
「イベリコ豚を買いに」。
十分良い本だけど「食の終焉」と「やまけんの出張食い倒れ日記」を読んでいると、食レポとして鋭い情報はない。
専門外の素人が事業を立上げるドラマという視点で読めば、著者の謙虚な姿勢や心境の変化がおもしろい本。
9月
生き物の描き方 | 盛口満 |
何もかも憂鬱な夜に | 中村文則 |
ラギッドガール | 飛浩隆 |
五分後の世界 | 村上龍 |
雑草が面白い | 盛口満 |
ネコジャラシのポップコーン: 畑と道端の博物誌 | 盛口満 |
文体の科学 | 山本貴光 |
絵と言葉の一研究 わかりやすいデザインを考える | 寄藤文平 |
ステーキを下町で | 平松洋子 |
日本文学全集 08 日本霊異記 今昔物語 宇治拾遺物語 発心集 | 伊藤比呂美,福永武彦,町田康 |
「何もかも憂鬱な夜に」はタイトルどおりセンチなかんじ。
でもこういう自分自身への鬱屈は分かるとおもう。
「グラン・ヴァカンス」の後日談となる「ラギッドガール」。
物語にいっきに血が通ったかんじ。
はやく続きが読みたい。
先月の「インザ・ミソスープ」と「五分後の世界」。
好きなブロガーさんがおすすめしていたので久々に村上龍を2冊読んだ。
読んで気づいたけど、非日常的な極限状態に置かれた主人公にすっかり気持ちが乗れなくなっていた。昔は大好きだったのに。
ごく日常の惨たらしい気持ちや葛藤を見いだし、それとどう生きていくのか。
そういう強かさを今はもっと知りたい。
もちろん描かれた極限状態をメタファーとして読みかえるべきだけど、今はあまり心に響かなかった。
文体の科学
もうこの本の存在自体を愛している、「文体の科学」、本にしてくださってありがとう。
文体論といえば"文しか着目されない"のが一般的だけど、この本は文のまさに体、文字組やデバイスなどの文を取り巻くインターフェイスのデザイン全体に言及する。
ハアー! 可能性が! ひろがっちゃう! すばらしい! すばらしいよ!
それらを文体として包括的に論じ本にして出版する人が同時代に生きていること。
もう、愛しかない。
山本貴光さん(「文体の科学」の著者)が紹介していたので読んだのが、「絵と言葉の一研究」。
デザイナーである著者の「デザイナーを辞めようと思う」みたいな話でいきなりスタート。
なぜそんなことを言うのか、読者が気になっているその疑問にどの話も結びつく最後はとにかく見事。
ただの指南書ではない。
イラストも多くとっつきやすい本なのに、著者は血で書いた言葉のように思った。
良い本です。
「日本文学全集 08」も山本貴光さんが「めっちゃ笑える」と紹介していたので読んだ。
古典の大胆な現代語訳集なのだけど、大胆すぎ。
あまりに切れ味がいいので、何篇か朗読した。気持ちが良いのでオススメ。
「宇治拾遺物語」はびっくりするくらい便とか屁の登場回数が多い。
おそらく笑いのつぼが現代の小学生男子と同じ。
当時の人々の生き生きとした生活が感じられるようでとても楽しかった。
10月
岸辺の旅 | 湯本香樹実 |
ダロウェイ夫人 | バージニア ウルフ |
想像ラジオ | いとうせいこう |
日日是好日 「お茶」が教えてくれた15のしあわせ | 森下典子 |
全ての装備を知恵に置き換えること | 石川直樹 |
グラスホッパー | 伊坂幸太郎 |
東京ロンダリング | 原田ひ香 |
私の日本語雑記 | 中井久夫 |
図解でよくわかる土壌微生物のきほん | 横山和成 |
「岸辺の旅」は映画を観て、原作を読んだ。
「岸辺の旅」を観ました+読みました|へもか
映画と原作の一体感がすごいので知らなかったら原作の著者が映画の監督をやったと感じるくらいだとおもう。
ぜひ映画とセットで。
先月読んだ「文体の科学」で紹介されていた「ダロウェイ夫人」
人物の胸に去来した思いをすべて書きだして羅列する、という手法で書かれている。
心の動きをそのまま書いた、そんなことが可能だったのかとおもう文体。
その場のシーンに関係なく過去の思い出も彷徨うようことになり、慣れるまで人物たちの個人的な記憶と伴走するのは難しかった。
すごいのが主人公のダロウェイ夫人だけでなく、他の人物についても同じように書かれていること。
人物の感情がまるごと流れこんでくるような体験だった。
東日本大震災がテーマの本だとは知らず読んだ「想像ラジオ」。
テーマを共有すれば悲しみも共有できる、とは限らないんだなとおもった。
無駄に重ねられた言葉が悲しんだり泣いたりを強要するようで、あまり好きな本ではなかった。
そのものずばりのテーマを扱わなくても、知らないうちに抱えていた悲しみに触れてくる本が好きだ。
どんな本でも励まされる人がいるならそれでいいと思うけど。
日日是好日―「お茶」が教えてくれた15のしあわせ
ずーっと茶を習っている友人にオススメしてもらった本。
著者が茶を学んでいくエッセイなんだけど、抜書読みかえすだけでウルッとしてしまう。
著者が茶を通じて出会った自由や安息や焦りや世界の美しさ。
わたし自身は茶道にまったく縁がないのだけど、なぜこんなに鮮明に感じられるんだろう。
毎日に感動して生きることができる人になれたら最強だ。
「私の日本語雑記」は、山本貴光さんが話題にしていて借りた本。
翻訳もしている著者による日本語に関する雑記なのだけど、おもしろい。
文体に関する感覚的な話もあれば、文法に関する話は厳格でせめて用語を知っていないとむずかしい話もあった。
言葉が風雪に(物理的に)耐えているだとか、考えてもみない話がたくさんあって興奮した。
文を書くことを生業としているひとはみな日本語雑記を書いてほしい、読みたい。
探検家である石川直樹さんの「全ての装備を知恵に置き換えること」。
装備で補っていたことを自分の力だけで切り抜けられるよう、身体ひとつで進めるように究めたいという話。
タイトルの意味を理解できただけで十分な収穫。
そういう流れでのこのタフな言いまわしだけど、不思議とデザインにも通じるような気がした。
11月
にんげんのおへそ | 高峰秀子 |
建築映画 マテリアルサスペンス | 鈴木了二 |
人間は料理をする 上 | マイケル・ポーラン |
春と修羅 | 宮沢賢治 |
これが私の優しさです | 谷川俊太郎 |
砂の女 | 安部公房 |
にんげんのおへそ (新潮文庫)
高峰秀子さんという大女優のエッセイ、「にんげんのおへそ」。
このエッセイを書いている時点で著者は74歳だけど、とんでもなく柔軟な思考とサラッとした気遣いと気丈な振舞いがほんとうに素敵。
茶道の森下典子さんといい、なりたい女性像が増えた。
エッセイは生活雑記だとおもっていたけど、こんなおもしろかったんだな。
「マテリアルサスペンス」は2年前に一度読んでいる。
先月観た「岸辺の旅」の監督の黒沢清についての論評が気になって読みなおした。
何度読んでもおもしろい。
著者鈴木了二の漲る愛が冷静な口調と相まって理解の彼方へ爆走していくとこが最高。
図書館でふと目にとまって借りた「人間は料理をする 上」。
ハイハイ、おロハスな生活に憧れるアメリカ人ね、と軽く読もうとおもったらいきなり丸一頭の豚を一晩かけて焼きはじめたので、やはりアメリカはスゴイ。
しかもずっと火を焚いているのでうっかり家ごと焼いてしまったことも一度や二度ではないとかいうので、やはりアメリカはスゴイ。
料理を火、水、空気、土に分類して起源まで遡る。
料理の歴史を遡って人間が集団や家族で生きることの幸せを、実際に料理をし食卓を囲むうちに見つけていくのがとてもよかった。
料理の科学や経済の側面も書かれていてバランスも良い。下巻がたのしみ。
「これが私の優しさです」は友人にオススメしてもらった詩集。
ちょっと泣いてしまった。
11月に読んだ本が少ないのは、この月だけで福岡と函館に旅行にいったからである。
仕方があるまい。
12月
岡村靖幸 結婚への道 | 岡村靖幸 |
張り込み日記 | 渡部雄吉 |
コーヒーゼリーの時間 | 木村衣有子 |
夫婦茶碗 | 町田康 |
伊藤比呂美詩集 | 伊藤比呂美 |
常識の路上 | 町田康 |
絶望名人カフカの人生論 | フランツ・カフカ, 頭木弘樹 |
絶対音感 | 最相葉月 |
男の作法 | 池波正太郎 |
日本文学全集 02 口訳万葉集 百人一首 新々百人一首 | 折口信夫, 小池昌代訳, 丸谷才一 |
パン屋再襲撃 | 村上春樹 |
色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 | 村上春樹 |
「岡村靖幸 結婚への道」はおもしろかったので、感想文というか所感をまとめた。
"どんな人と結婚すべきか"は人に聞かない|へもか
岡村ちゃんが結婚をテーマにゲストと対談するんだけど、ものの見事に結婚についてなんら答えがでなくて笑ってしまう。
対談にのぞむ岡村ちゃんの準備が綿密で、仕事に対する姿勢がすばらしいとおもった。
「夫婦茶碗」は町田康作品でオススメを教えてもらったもの。
底抜けにテンポよく堕落していく話が気持ちいい。
文章にムダは感じないので矛盾する言い方になるけど、「ソコで一言多い!」文章がなんとも良い。
その一言に、字を追う目がひっかかるというか読んでる流れが一瞬跳ねるような快感があってたのしい。
おもしろいよ!とオススメしてもらった「絶望名人カフカの人生論」。
日記や手紙などを引用して、カフカ本人が一点の曇りもない眩しいほどのネガティブの結晶であるということを紹介した本。
なにかにつけてずーっと絶望しているんだけど、ついに結核になったとき改めてイキイキと絶望しはじめたので笑ってしまった。
「俺は絶望していいんだ!」と許しを得たような意気揚々とした絶望の言葉。
ポジティブな言葉よりスッと読める。
POPEYEの特集で書名を見かけたので読んだ「男の作法」。
あえて女が読むというスタンスで借りたけど、いろいろ男前すぎて悔しい。
さすがに時代がちがう(1981年初版)のでまるごとマネできるようなものでもないけど、精神はなんとも清々しくて正しい。
わたしの中の男を磨いていきたいとおもう。
「伊藤比呂美詩集」、散文詩とエッセイ。
アアア、なんだろう、むちゃくちゃ恥ずかしかった。嘘偽りのない純真なメスっ気。
パン屋再襲撃 (文春文庫)
中学生以来に読んだ短編「象の消滅」が読みたくなり、収録されている「パン屋再襲撃」を買った。
男と女がカクテルを傾けながら話をするという設定だけで(ワア大人っぽい…)と思っていた頃、懐かしい。
初めて読んだときに"象が縮んで檻を抜け消えた"という話を真剣に信じかけた、その文のパワーはかわっていなくておもしろかった。
「ファミリー・アフェア」がとてもよかった。
2015年の読書、こんなかんじだった
上半期で40冊、下半期で50冊、計90冊。(マンガと雑誌はのぞく)夏は小説の割合が増えて冊数が加速。
熱中して本を手に持っていることすら忘れるのはたのしい。
精神ガタガタだったので、逃避できて助かった。
そしてなんといっても、今年は詩を読みました!
小学生で初めて詩と出会ったとき、あまりにチンプンカンプンで「コンニャロ!言いたいことがあんなら箇条書きにしろ!」と決別。
以来、読んだことがなかった。
散文はルールを守って伝わりやすいように書いているのに、詩はそのルールを無視してそのくせグイグイ感情に割りこもうとするのがセコくていけすかなかった。
ここ数年、手当り次第に本を読んで、「伝わりやすいように書いた文章で伝えられることには限界があるのではないか」という気持ちになった。
伝えたいことにもよるけど。
ルールを無視した余白やわけのわからなさが何を伝えるのか気になってきた。いまなら読める気がする。
オススメの詩集を教えてくださいとお願いしたら3人も教えてくれた。本当にありがとうございました。
そんな真髄のようなものがいきなり分かるわけもなく、ただ翻弄されるばかりだけど読めるようになってとてもうれしかった。
来年はバランスを戻して、テクノロジー系やノンフィクション系を増やしたい。
新しい知識はおもしろいだけじゃなくて、いままで知らなかった切口を示してくれる。
その切口を完全に見失うことがないように感想を書きたいと思う。
2016年はどんな本を読もうかな、たのしみです。
本の抜書は"ぬすみがき"にまとめているのでよかったらどうぞ。
ぬすみがき