三浦 展
1575円
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本の概要
サブタイトルのとおり
郊外のニュータウンのもう抜き差しならない危機とそれを肯定的に捉えた再生についての本
建築や都市計画の専門書だろ…と避けてしまいがちだが
わたしが読んでもそうとうおもしろかった
むしろ日本で暮らすすべての人にとっておもしろいはず
郊外ニュータウンの出自や意味 地域ごとの特色という基礎知識的な論考
あるいは個人的な思いいれから語られる郊外ニュータウン像
あと数十年のうちに迎えるであろう変化や危機に関する異分野の座談
それらを乗りこえていく理想のみで語らない構想
(まぁいくつかは理想論っぽいのもあったので批判的な目で読むのもいいとおもう)
お仕事紹介のようになってしまった論考を除いてとても刺激的な本であった
どんな暮らし方がされてきたのか
これからどう暮らしていくのか
考える時間をもてた
この本のハイライト: 上野千鶴子と藤村龍至の座談
いちばん盛りあがったのは社会学者の上野千鶴子さんと建築家の藤村龍至さんの対談
序盤は藤村さんがこてんぱんにされていた
例に出した妹島さんも(再春館製薬女子寮の件で)ぼろくそに言われていた
社会学者からみた建築家って空間に縛られたゴリゴリなカンチガイヤロウだった
知らなかったことといえば
「つながり」は社会学で社会関係資本と言いかえられ 2種類に分けられること
コミュニティ: 地域共同体
アソシエーション: 共通の関心や目的で集まった機能的集団
アソシエーションは重層化しうるというのが大きなポイントである
当然 ひとりの人間は様々な集団に所属しうる
で これをいかに物理的空間でフォローするかというのはわくわくする問題だが
アプローチするにあたって建築家の扱う変数は身体拘束的や空間拘束的になりがちであると
上野さんはいう
もっと生活実態にあったリアルな変数を知る必要があるとのこと
(eg. 空間距離ではなく時間距離)
それぞれの場合におけるリアルな変数とはなにか
考えるとたのしくなってきませんか
もし1冊まるごと読んでる時間がないというのなら
この座談を読むことをオススメする
そういや いまの建築学生でも「つながり」とかの言葉は流行っているんだろうか…
わたしの頃はというと 恥ずかしいくらい連呼していた
それでも違和感をかんじたまま コミュニティを空間に落としこんで課題を提出していたわけで…
(あるいはほとんど空間はつくらない!フレキシブルな空間!という選択をしていたとしても)
どうして「つながり」が必要なのか
卒制で調べたつもりだったがもっと他の学問からアプローチしてみるべきだった…
どうして感想文書くほどおもしろかったか
正直にいうと個人的なライフステージのタイミングがあったとおもう
これからどんなふうに働こうか
結婚するならどう暮らそうか
子供を育てるならどんな環境で遊ばせてやりたいか
これらが住む場所からうける制約はデカい
つい読みふけってしまった
この経済状況のなか 行政や企業やNPOに問題を預けっぱなしで快適に住むことは難しい
生活者自らも工夫して参加する必要がある
コミュニティやアソシエーションでモチベーションをもって働くことで
「私」を充実させることができる
(いいこと言ったはずが横文字ばかりの文になってしまって恥ずかしい)
モノの所有や消費で充実感を得る従来のやり方は続けられないだろう
ほか 気になったポイントを箇条書きにする
- 炊事場や洗濯場も個で所有するようになり住の境界線が扉一枚へと減少=外部とのかかわりも減少
- 生活者にエリア私有意識があること
- 暮らせる場所として維持できる機能を確保する
- 生活困難者を支えるビジネスが誕生している
- 住宅のシェルター化(宅配サービスが物資支給のよう)をふせぐため住民に移動できる設備/能力をもたせる
- 生きる意欲になるような目的や役割を地域で得る
ちなみに
Amazonで☆1のレビューがあったのだけど この方はこの本を読まれていないのだろう
タイトルと目次しか見て(見えて)いない
まともに読んでいれば サブタイトルの「再生」というキーワードが一般とズレていることに気がつく
「再生」はただやみくもに郊外ニュータウンを蘇生するという意味ではなく
無理なところは切りすて 可能性を見極め コンパクトシティ化をすすめること
という意味も含んでいる